人事情報システムの活用

タレントマネジメントをどう成功させるか?
永井隆雄

 英文の論文によれば、包括的で戦略的な人材管理をタレントマネジメントと呼ぶことが非常に増えたのは2006年頃だとされていますが、翻訳もなく、何がタレントマネジメントなのかという実感なりイメージはまるで日本にはないまま、15年以上が経過している。
 人事情報システムのベンダーが、タレントマネジメントとかタレントマネジメント・システムという表現を盛んにしていますが、提供されているのは、90年代前半とほとんど差がない時系列の履歴の残せるデータベースのスケルトンで、言うなれば、迅速かつ正確に操作できる引き出しの箱で、ベンダーの社長自身がそう言っている。加えて言えば、毎日バックアップを取り、データの消滅を防ぐ点は各社とも確保している。現状はせいぜい写真付きの組織図を一瞬で作図するとかが現状で、多額の費用をかけて、DB化する意味のない情報を入れているだけだ。
 まず、人事情報システムを活用することでタレントマネジメントを行なうという意味では、私は次のように考えます。
 これは、日本PDIやヘイグループの手法ですが、30分から120分の面談を行い、短いものでは、学校を出て以降の経歴やプロフィール、将来への展望などを記述し、これをDBに入れること。これにより、上司や異動予定先上司、人事などがその社員の概要をつかめる。長めの面談では、アセスメントの要素を入れて、質的には複数のセルに、また評定した量的な情報をDBに入れ、質的なものはプロフィールとし、量的な部分は、クラスター分析で類型化して、例えば5つ程度のタイプをクライアントに提供する。クラスター分析はSPSSで簡単に行なえ、その後、エクセルに移して、数字のばらつきの差を解釈して決められる。
 なお、個人的には、インタビューアセスメントは質的にはいろいろな情報を提供してくれるが、アセッサーが1対1でやるので寛大化、厳格化、極端化などの偏向が避けられないので、加工に耐えられるかはやや疑問。
 次がアセスメントセンターの数字だが、これは大量なデータでクラスター分析したが、5つの決まったパターンしか出てこない(弊著「アセスメントセンターのクラスター分析」九州大学紀要)。活用には限界があるが、企業ごとに出現パターンが異なり、将来のパフォーマンスや人事考課を予測する可能性はある。少なくとも、クロス観察できないインタビューアセスメントよりはましだ。
 このほか、実施している企業は聞いたことがないが、産業・組織心理学には多くの確立された尺度があり、燃え尽き症候群(バーンアウト)や幻滅度合い、組織コミットメント、職場環境要因分析、その他があり、離職性向、会社や職場への不満やストレス、抑うつ度、精神的疲弊度、エンゲージメントなどの先行指標になる簡単なテストが多数ある。よくできていれば、既存の適性試験とともに、その結果を入れて階層別にソートすれば、入社4年以内で辞めたくなっている社員のリスト、特定階層の上司・部下・同僚・顧客との葛藤の強い社員を発見することができ、それによって異動をかけたり、カウンセリング、その他の対応をすることができ、それはまさにタレントマネジメントになると考える。
 人事情報システムにはいくらでも情報を入れることができるが、適性試験が実際、何かを予測する先行指標になっているかは、例えば300程度をサンプリングして他の結果系指標、既に先行指標として確認できているものと突き合わせ、活用すべき、検証なしに活用すると判断を誤り、想定外の介入を社員にすることになり、慎重に行なうべきだ。
 余談だが、リクルートは毎年、学会報告をしている。抑うつ状態になるかどうか知りたいなどの顧客ニーズがあるようで、それをSPIの項目(ちなみに多数あるうちの2つ)で予測できるというが、学生時代に実施したテスト結果が就労数年時のストレスを予測すると考えにくいし、その説明は多くの企業が信じて、その2項目だけは中程度なら絶対落とすらしいが、でたらめなテストだけに濫用されていると思う。
 私の研究経験(特に介護職)では、入職後、半年は強い抑うつ状態の先行指標であるバーンアウトでさえ、さほど落下しない。しかも、バーンアウトが示すのは、仕事がきついなどのストレスで、うつ病になるのは遺伝や生活習慣など解明されていない部分が非常に多く、ストレスがその人にモチベーションになる場合もある。
 強いバーンアウトがあっても全員が離職しないし、看護師調査では、離職やストレスは、家族形態(例えば、実家暮らし、恋人ありなし、シングルマザー、一人暮らしなど)で大きく異なり、社員が許容する範囲で家族形態、パートナー有り無しなどはうまく把握し、DBに入れると、メンタル面、離職性向は予測でき、採用選考や異動、昇格などに参考になる。例えば、ものすごい距離の遠距離交際をさせたら、社員は辞める可能性がある。辞めてほしいなら、そういう異動も考えられる。
 タレントマネジメントを成功させるには、1年に1回、実在者の一部について質問紙調査を行ない、常に組織で起こっている心理現象を掌握し、何度も仮説・命題を構築・改定し、その上で、人事情報システムを活用して分析・判断し、異動・活用・昇格昇進検討・放出候補の検討などを行なうべきだ。
 現状は産業・組織心理学者も日本には数少なく、人事情報システムにも疎い。他方、ベンダーは悩みながらもDBに入れる情報が何か暗中模索、心理統計学的なアプローチも知らないので、リードする人がいない。それ以前に、タレントマネジメントの英書がかなり出て、定番も多いのに、日本では読んで理解している人も少ないから、タレントマネジメントという言葉自体が徐々に日本では忘れされようとしている。しかし、人事的決定には重要で、活路は案外容易ではないかと私は考える。