次世代リーダー育成/サクセッション・マネジメント
タレントマジメント・シリーズ

組織人事コンサルタント 永井隆雄

 タレントマネジメントとは、従来、HRMや戦略的HRM(人的資源管理)と言われていたものを、事業戦略と組織人事について、もう少し多角的で、しかも、統合的なものと捉え直すものである。
いずれにせよ、その大きな柱がサクセッション・マネジメントである。平たく日本語で言うと、「次世代リーダー育成」あるいは、経営幹部の発見と育成のことだと言ってよい。
 いくつかの文献と事例を紹介することから始めたい。
 まず、カルロス・ゴーンが日産にやってきた時、いろいろなことについて注目が集まったが、比較的最近になって、ゴーンが最初に始めたことが確認されていることだ。それは、各部門部署における、代表者、あるいはリーダー格は誰なのか、というゴーンの問いに従前の経営陣は即答できなかったことだ。
 今や完全に再起して国際的にも有力な企業として復活したニッサンだが、カルロス・ゴーンが着任した当初は、組織は荒廃し、あらゆる面で閉塞感にさいなまれていた。ゴーンは様々な取り組みをしたが、その1つにサクセッションプランの徹底がある。実は、これは、米国におけるタレントマネジメントにおいて中心的なイシューだという意見もあるほどで、タレントマネジメントという言葉が登場し、日本で日常的に語られる、はるか以前から、ニッサンでは、タレントマネジメントの一部に着手していたことになる。
 社長として着任したゴーンは、経営陣を前に質問した。「各部門でそれぞれ一番活躍している人は誰ですか?」、この質問に対して、当時の経営陣や人事部門はそのような人材管理は行なっていないので、誰なのか、はっきりしない、と答えざるを得なかった。そして、すぐさま、各部門各部署で誰が一番活躍しているのか、キーマンは誰なのか、将来、その部門や部署を背負っていくと期待されるか、確認することを始めた。
 また、プール(Talented People Pool)という社内用語ができ、その後、数年のうちに、各ポジションに対して数名、場合によってはそれ以上の候補の人材群をプールとしてエントリーし、本人には知らせないが、そのプールにいることで自ずと、習得すべきスキルや知識、職務経験が明らかになるので、インテンシブに、また計画的に人材育成を図れるようになった。本人に知らせないのは、プールに属しているかどうかは定期的に見直しをされ、入れ替えが行なわれ、プールから外されることもあれば、新たに追加されることもあるが外されたとき、あるいは、プールにいて特定のポストの候補を知らされながら、そのポストに就かなかった場合、本人が落胆することを避けるため、そうしていると同社の人事部門の方は語っていた。
ゴーン以前は、どこもお神輿のようになっており、誰がキーマンなのか、はっきりしないことに、ゴーンは直ちに中核人材を明らかにし、さらに、その人物の跡を継承していく人材のチェーンを示せ、と命じたという。
 ただ、チェーンのようにはなっていないし、先読みできない部分もあるので、基本的にそれを「プール」と呼ぶようになった。かくして、①お神輿を力強く担いでいる人、②単にひっそりと担がれている人、③ぶら下がっている人がそれぞれ峻別されるようになった。
 すなわち、それまでの馴れ合いで、悪平等で、功労者を明らかにしない「お神輿型人事」と新生・日産は決別したのだった。
 それ以来、徐々に、各階層のお神輿が解析され、分解され、デフラグされ、3割以上の組織に悪しき影響を与える人たちは粛清されたようだ。私の知人が日産に数人、勤めているが、パワハラするような人などはやり手でもほとんどいなくなって、非常に働きやすくなったという。
 このエピソードで重要なことはいくつもあるが、私個人としては、功労者や功績を上げたと自負した人が、後継者ではなく、むしろ、そういう人は別の会社や組織、関連する、あるいはしない先に移ってもらうほうがいいことだ。私は、このような人材群を、ディレーラー(脱線者/自己破功者)と呼んでいる。
 ディレーラーは、自己愛と演技性の人格障害があり、部下や同僚などを「敵と味方」に峻別し、闘争心が強く、ある意味でカリスマ性があるが、最終的には、自分のヒロイックなストーリーの回転木馬なので、組織を病んだ状態にし、腐食させていく。それが、100%近く、本人所有のオーナー会社なら、船主と組織は生命をともにし、潰えたらおしまいだが、一定規模の組織になると、そういうわけにはいかない。
 ゴーンですら、長期政権となってはいるが、自ら千年王国を築くために来日したわけではない。
 そうなるかどうかは別に、極論をすれば、トヨタは同族会社なので、同族が潰えたら、経営理念や方向性などを全部リセットしてもよいだろうし、今言う「トヨタウェイ」は8割以上、瞬時になくなっても、それでいいし、また、別のDNAで、不気味とみられがちな社風がなくなり、社会性重視の会社に生まれ変わるかもしれない。
 ところが、日産は、日立製作所や日立造船などとともに戦前から日産コンツェルンを形成してきた準国策的企業であり、主に、奢侈品となるガソリンエンジン車を製造販売するトヨタグループとはやや意味合いが異なる。
ただ、いつの間にか、トヨタは、経団連の会長も輩出し、国策企業に食い込んでいる。また、キャノンは、労基法を堂々と破る組織(業務請負と派遣法の禁じ手の横行)なのに、財界団体とつながって、雇用融解の代名詞として、一時は君臨し、その後、没落した。
日本企業の話題はこの辺までにしたい。
さて、少し理論的、ないし学説的な話をしたい。
ところで、米国でタレントマネジメントの理論や実践に関して影響力の大きな人物の名前を挙げるとすれば、もちろん10名は下らないと思うが、当座次の3名を紹介したい。すなわち、ローラー(E.LawlerⅢ)、バイアム(W.Byham)ロスウェル(W.Rothwell)である。
エドワード・ローラーは日本でも期待理論など知名度、認知度はあるが、ほとんど翻訳された著作がない。南カリフォルニア大学教授を長く務め、報酬決定や人材開発、組織開発、人的資源管理等について膨大な著作や論文があり、タレントマネジメントに関してはバランスト・スコアカードと結びつけた独自のソリューションを提案するなど実践的な産業・組織心理学者である。また学会の特別名誉会員であり、屈指の産業・組織心理学者として認知されている。
バイアムは、米国におけるアセスメントセンター方式普及のキーマンの一人である。ブレイ、キャンベル、グラントらによって実施されたAT&Tにおける長期的なキャリア研究は有名だが、その骨子は入職して3-5年程度で行なわれたアセスメントセンターの結果が、実際にその実在者の昇進や能力形成に極めて有意な正の関係があることを実証したことである。その内容は1979年に刊行されている。
Bray, Douglas W., Campbell, Richard J., & Grant, Donald L (1979) Formative years in business: A long-term AT&T study of managerial lives
 バイアムは、プロジェクトメンバーの一人であるブレイとともに、アセスメントを実施するシンクタンク、DDI社を設立した。同社は、マーチン・ダネットとその弟子たちが設立したPDI社などと並んで、米国ではアセスメントセンターによる人材評価のシンクタンクとして一定の地位を占めている。タレントマネジメントを主にアセスメントの観点からサービスしており、多くの情報発信を行なっている。
http://www.ddiworld.com/Global/media/guidebooks/helpingyourceounderstandtalentmanagement_gb_ddi.pdf?ext=.pdf 
米国では特定のポストに複数の候補者がいる場合、外部のアセスメント会社に委託することが多く、経営層に近い層に関してはエゴンゼンダー社(Egon Zehnder)が有名である。DDIやPDIはミドル以下のマネジャーの選抜と育成課題の発見で有力である。
ロスウェルは、大学教授でもあるが、長年、コンサルタントとしても活躍をしてきた人物で、特にコンピテンシーの普及に一役を担った人として知られている。彼のタレントマネジメントの考え方は、基本的にサクセッション・プランニング(次世代育成計画)そのものであり、有能なリーダーを切れ目なく継続的に送り出すのがSP&M(サクセッション・プランニング・アンド・マネジメント)であるとする。ロスウェルの著作は人気があり、その多くが再版を重ねているが、タレントマネジメントと関連するものとして、次の著作が手頃である。2010年が最新だが、15年以上にわたり、毎年のように再版を重ねている。
Effective Succession Planning: Ensuring Leadership Continuity and Building Talent From Within(効果的な次世代計画:リーダーシップの継続性を確かなものとし、内部から人材を育成する)

 主な内容は箇条書きで示す。
1.ハイポテンシャルな社員により多くの機会を提供すること:これは最大の理由だが、この場合のハイポテンシャル社員とは将来活躍するだろうと考えられる社員のことを指している。彼らの昇進を加速させ(accelerate)、組織に引き留めないといけない。すなわち、優秀な人材のリテンション(定着化)が提唱されている。
2.また、訓練、従業員教育、人材育成において重要な事柄を絞り込むという意味で「配置替えの必要性(replacement needs)」を認識すること:言い換えると、SP&Mは訓練、教育、人材開発のニーズを認識する促進力(driving force)になる。そして、訓練や教育は現在の職務上の役割、責任を果たすために要請される。言い換えると、それぞれの人材に求められる知識やスキル等の習得を促進するために、それを可能にする職務経験を事前に計画的に積めるよう、配属・配置を意図的に行なうことが強調されている。
3.開発可能な社員の「人材プール(Talented People Pool)」を増大させること:SP&Mは、将来における重要なポジションに人材を満たす準備をするプロセスを定式化(formalize)する。人材プールの定義、要件を明確化し、そこにエントリーできる人材を量的に増やす取り組みが要請される。
4.組織の戦略的事業計画に貢献すること:SP&Mは、組織の戦略、人的資源管理、人材開発計画やその他の組織の計画や活動に連動し、支援的な役割を果たさないといけない。そして、SP&Mには少なくとも5つのアプローチがあるという。①トップダウン・アプローチ、②市場志向のアプローチ、③キャリアプランのアプローチ、④未来志向のアプローチ、⑤ライフル・アプローチ(直面する組織の課題に即応する)、である。
5.各人が組織内のキャリアプランを実現する手助けとなること:組織は従業員の教育・訓練に本質的な投資(substantial investment)を行なう。従業員のパフォーマンスは、組織固有の、また職務固有の知識を習得する学習曲線に沿って個人的成長が経験を通じて増大させていく。人材育成や個人成長では、困難な経験(Job Challenge)や特定の職務経験を積ませることが必要なことは多くの識者が強調している(例えば、ロンバードらの著作『経験からの教訓(Lessons from Experiences)』はよく読まれている)。
6.組織における知的資本に対するポテンシャルをタップすること(tap、軽くたたく、促進すること):知的資本は組織の人材価値に関連している。組織における知的資本に投資を行なうということは重要な戦略である。
7.多様なグループの成長を後押し、激励すること:米国における労働者は人口の割に多様化(diverse)している。不幸にもすべての労働者が平等に扱われてきていないという歴史もある。実際のところ、差別もある。そこで、多元的な文化を創生する必要がある。
8.従業員の能力(ability)を環境からの需要に変化させること:組織のリーダーの役割の1つは、あいまいさや不確実性から組織を防衛することとなる。
9.従業員の士気(morale)を増進させること:SP&Mは内部昇進(組織内部からの人材の登用重視)を促すことによって従業員の士気を高める意味合いがある。実際、内部育成方式はより効果的に能力アップになるし、インセンティブにもなる。ポストが空いたから、適宜、外部から人材をスカウトするというやり方では、内部の人材の自己啓発、能力開発を動機付けることは難しい。
10.自発的な退職(separation)プログラムの効果に対処すること:自発的退職は、退職強要に極めて類似している。自発的な退職では従業員に組織を去るインセンティブ、たとえば、退職加算金などが要請される。同様に、退職強要では、生産的な従業員に組織を去る際に、仕事が再配分(reallocate)されることが要請される。SP&Mは、人的リストラ(workforce restructuring)を行なったのちに、どのようにして、また誰に、仕事を再配分するかを確認するうえで意義がある。
11.組織にダメージないように、どの社員を辞めさせたらよいのかを決定すること:雇用主(会社側)は、今すぐに職務に合う人材なのかという適合性(suitability)を考えると同時に、長期的に見た成長(advancement)に対するポテンシャルを考慮すべきだ。すなわち、将来の組織で必要となる人材は辞めさせないようにするという観点が必要である。
12.組織の規模縮小の効果に対処すること:ダウンサイジングは米国企業で継続的に行われてきていることは事実であるし、今後も続くであろう(2001年時点での記述)。中間管理職と専門職にはとくにその影響が出ている。仕事(job)を取り上げられたら、会社(work)を辞めるしかない。だからこそ、すべての社員に対して、特段の責任が追及されていないときにさえ、役割をきちんと果たしている(perform activities)かどうか、しょっちゅう、確認しないといけないのである。

 特筆すべきは、もともと優秀な人材をいかに獲得するかで始まったタレントマネジメントの議論は、HRの専門家によって、内部育成を重視し、そのためには困難な仕事、任務、経験に直面させ、見込みのある人材をなるべく早く引き上げていくべきだという議論に変わっているのである。
これは、DDI社のチェアマンであるバイアムにも共通する観方である。バイアムは内部育成を重視することを提唱しているが、その理由として、組織としての価値観や何年かでも一緒に働いたということで、その人材に対する同僚の信頼感、親近感が生じるから、外部から今必要な人材をいきなりスカウトするのではなく、内部でまずはプールを作り、足りない場合は、将来を見据えてプールに補充するという発想でと行くべきだとしている(Byham,2001)。
また、日本のニッサンでは、プールに属しているかどうかを本人に知らせないということを指摘した。これに対して、バイアムは、プール(「アクセラレーション・プール」と呼んでいる)に入って、特定のポストに向かって、用意された研修プログラム、遂行が困難と感じられる挑戦的な職務経験を積むための配属・配置、本人には厳しいと感じられるかもしれないコーチングやメンタリングなど受けることになるので、プールに入るかどうかの意思確認を行ない、本人が自発的、かつ意欲的にプールの人材群の一人として加速的な能力開発に取り組むか、決意表明させるべきだとしている。そして、そのようなプールには入りたくないという人の意思も尊重すべきだとしている。
日本企業では、これまで年功序列がベースになってきており、それは徐々に崩壊してきているが、性別や年齢、社内での職務経験の履歴だけではなく、ポテンシャルや本人の希望キャリアプランを考慮してサクセッションプランを考えてきていたわけではない。次世代リーダー育成とも言える、このような取り組みは、タレントマネジメントにおいて大きな課題の1つである。

※文中に紹介したバイアムの著作は次のもので、邦訳も出されている。
William C. Byham他 (2002) Grow Your Own Leaders: How to Identify, Develop, and Retain Leadership Talent

また、邦訳も出されている。『「AP」方式による次世代リーダー発掘と集中的育成―人材を社内で見つけ育てる後継者育成制度』(2006年、ダイヤモンド社)


バイアム(W.Byham,2000)であるが(Grow Your Own Leaders: How to Identify, Develop, and Retain Leadership Talent)、アセスメントセンター(以下、AC)の嚆矢のひとつであるDDI社の創業者の一人である。
その他のメンバーは、ACがどの程度、有効かを20年以上にわたって追跡するというAT&T研究を行なったことで有名である。
バイアムは、この本以前には、内部資料はともかく、あまりACの理論や技法に関して著述したわけではない。また、ACがどの程度、妥当性や信頼性があるのかは十分に研究、検討されているわけではない。
私の個人的経験、すなわち、約20年のAC経験とアセッサーを統合するアドミニストレーターの経験では、およそ3千人の対象者に関して、まず、
①個人によって評価の尺度の甘辛があること、例えば、論旨に関して厳しい人もいれば、対人感受性に厳しい人もいる、
②外見や印象を重視する傾向を持つ人が多い、
③言動を観察、記録し、評価基準(ディメンション)に落として評定するプロセスを根気強くやれる人は少ない、
ということだった(ACの信頼度に関しては後述)。
バイアムは、次世代リーダー育成を「あなたの組織のリーダーを育てよう」と表現している。そして、副題に、リーダー人材をどのように確認し、育成開発し、定着化させるかと述べている。
この本は、あまりテクニカルな説明はないが、ディメンションと呼ばれていた基準を、コンピテンシー(行動優位化要因)と呼び替えるなど画期的な意味がある。また、エグゼクティブ・ディレラー(経営管理者の崩落要因)という基準が示されている。代理店をしているMSCの日本語訳もあるのだが、専門外の人が訳したとしか思えないものなので、私の訳語を列挙しておく。
■コンピテンシー Competencies

A)対人スキル Interpersonal Skills
◆戦略的関係構築 Building Strategic Relationships
◆信頼構築 Building Trust
◆インパクト・コミュニケーション Communication with Impact
◆文化的対人有効性 Cultural Interpersonal Effectiveness
◆顧客志向 Customer Orientation
◆説得力 Persuasiveness/Sales Ability

B)リーダーシップ Leadership Skills
◆チェンジリーダーシップ Change Leadership
◆コーチング/ティーチング Coaching/Teaching
◆権限委譲 Delegation
◆人材育成 Developing Organizational Talent
◆エンパワーメント Empowerment
◆ビジョンセリング Selling the Vision
◆チームリーダーシップ Team Development/Team Leadership

C)ビジネス/マネジメント・スキル Business or Management Skills
◆成果志向 Drive for Results
◆実利志向 Economic Orientation
◆戦略的ディレクション Establishing Strategic Direction
◆グローバルな手腕 Global Acumen
◆ジョブ・マネジメント Managing the Job
◆マーケット志向 Marketing and Entrepreneurial Insight
◆リソース動員 Mobilizing Resources
◆意思決定 Operational Decision Making

D)個人特性 Personal Attributes
◆自己洞察 Accurate Self-Insight
◆適応力 Adaptability
◆エネルギー Energy
◆経営者気質 Executive Dispassion
◆知的才能 Intellectual Capacity
◆学習志向 Learning Orientation
◆モチベーション Motivation Fit
◆ポジティブ気質 Positive Disposition
◆環境把握 Reading the Environment
◆回復力 Resilience
◆技術的/職業的知識技能 Technical/Professional Knowledge and Skills

■エグゼクティブ・ディレーラー Exective-Derailer 
1. 人への無関心 Aloof
2. 傲慢 Arrogant
3. 用心深過ぎる Cautious
4. 依存的 Dependent
5. 疑い深さ/過剰な猜疑心 Distrustful 
6. エキセントリック/風変わりさ Eccentric 
7. 曖昧さへの耐性の低さ Low Tolerance for Ambiguity 
8. メロドラマ的 Melodramatic 
9. 人を平気で傷つける残忍さ Mischievous 
10. 受動攻撃的  Passive Aggressive  (何もしない形で反抗する態度のこと)
11. 完全主義 Perfectionist 
12. 気まぐれ Volatile 

なお、こうした失敗要因の研究は、過去からあるもので、私なりに文献を探したところ、主なもので、次のようなものがあった。

 欧米におけるディレールメントの先行研究
ディレールメントは、ハイポテンシャル人材がキャリア上成功せず、不本意ながら失敗していくプロセスを雄弁に説明する人材開発上のモデルと捉えることができる。ディレールメントへの着目は、ホーガンのリーダーシップの失敗(unsuccessful leader)に関する研究(Hogan, R, Curphy, G.J., &Hogan, J. (1994,June) "What we know about leadership: Effectiveness and personality " American Psychologist, 49(6), 493-504)にその原初形態を見ることができる。ここでは、いくつかの要因が指摘されている。
1. 訓練不足:リーダーにふさわしい訓練を受けていないので、リーダーとしての役割認識が不足している。
2. 認知的な欠陥:経験から学ぶことがなく、戦略的に考えることができない。
3. パーソナリティ:不安傾向が強く、いくつかの障害要因を抱えている。パラノイア(妄想性)、受動攻撃性、気分変調(躁鬱)、自己愛性などの性向が強い。

 妄想性ないし受動攻撃性のあるリーダーは、表面的には部下を助け、やり手である。しかし、同時に部下に対するねたみも強く、隙を見て背後から突き刺すようなことも平気でしてしまう。また親和性が高く、とにかく人から強く好かれたい人材は、業績にはあまり関心を示さず、八方美人に振舞うので、たいした仕事もしないのに辞めさせられることもない。自己愛の強いリーダーは、自信過剰で、常に注目の的でないと気がすまず、何よりも自分自身の成功だけを追求し、失敗に関して非難を受けることを避けようとする。ホーガンの着目した失敗するリーダーの問題は、経験不足などの要因から来る自覚の欠如もあるが、むしろパーソナリティに関してDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersとは、米国精神医学協会の診断マニュアル。現在は第4版であることから、DSM-Ⅳと呼ばれる。)の示す主な人格障害が関係している。

 ホーガンに類似した視点は、ブリースのリーダーシップ論にも見ることができる。リーダーが失敗するパターンが次のように分類されている。ブリースにおいてはトップエグゼクティブやリーダーのダークサイドな行動が格調高い筆致で描かれていて興味深いが、網羅性にやや欠け、ロンバードの分類にほぼ包含される内容の列挙に留まっているように思う。

①葛藤回避/逃避性:対立状況や困難な課題を避けて逃げ腰になること
②専制暴虐性:下位者・部下に対して横暴なこと
③マイクロ・マネジメント過重管理/細部へのこだわり:本質や重要度を考慮しない管理や権限委譲しないこと
④躁的行動:鬱の反対で気分が高揚し、抑えの利かない行動に走ること
⑤高慢孤高性/近寄りがたさ:時に高慢で、部下や下位者を歯牙にかけないこと
⑥主人公願望:自分本位で、まるでドラマの主人公みたいに思い込んでいて自己中心的に振るまい、周囲に癒しを与える脇役であることを求めること
⑦転移:気分に左右され、不機嫌さを晴らすために、部下や下位者に八つ当たりすること、脈絡もなく相手を見つけて怒鳴りつけたり、激昂したりすること

 フランケルは、ハイポテンシャル人材の30-50%が期待される活躍をしないままキャリア上の軌道を外れるという調査結果があるとし、ディレールメントが起こるのはキャリアに関して勢いのあるときであると指摘している(Lois P. Frankel "Overcoming Your Strengths: 8 Reasons Why Successful People Derail and How to Get Back on Track" 1997 )。昇進、抜擢を受けたり、急な昇給やボーナスなどをもらった際に、取り立てて理由もないのに先を行くような認知を受けると自分自身を見誤ってしまうとしている。ディレールメント、キャリア上の躓き、キャリア・スタグネーション(career stagnationキャリア停滞)について8つの理由を示している。フランケルの示した8つの理由はありきたりのものであるが、その背景が幼児体験などにあり、コーチングやカウンセリングで緩和され解消されるとして解説したところに意義があると思われる。

1. 対人関係能力が稚拙なこと
2. チームの一員として働けないこと
3. コミュニケーションが稚拙なこと
4. 周囲に与える影響についての感受性がないこと
5. 上司とうまく折り合えないこと
6. 視野が狭すぎること、あるいは視野があまりに広いこと
7. 顧客のニーズに関心を向けられないこと/やれますという態度を示せないこと
8. 孤立してしまい、ネットワークが築けないこと

ディレールメント・インベントリー(抜粋)
   出典:Frankel"Overcoming Your Strengths"より筆者が独自に翻訳した。


番号 回答 質 問 文
1    よく人から私はお人よしだと言われる。
2    私は、独立して仕事をするよりもチームの一員として仕事することを好む。
3    周囲は私のアイデアや意見に注目し、それをその後、活用・実践している。
4    私は、いつも平静で、情緒が安定していると思う。
5    合理的な理由があれば、自分のやり方と異なる見解を表明することは問題にしない。
6    プロジェクトで仕事すると、つい没頭し、方向付けや自分なりのアプローチ方法を再評価する。
7    私は、最初にある障害を克服することをチャレンジングだと思う。
8    毎週少しでも仲間うちで関係作りをする時間を過ごしている。
9    私は、毎日少しでも同僚と話し込む。
10    私にとっては、チームで協働的に働くのは楽しい。
11    何を言うかだけではなく、どのように言うのかは同じくらい重要なことだと思う。
12    攻撃的/受動的ということと、アサーティブということの区別をつけているし、職場ではその点うまくやっている。
13    会社にとって好ましくない決定を下す人を見つけたら、自分の意見を述べる。
14    上司が口出しして自分とは違うやり方を強いても気にならない。
15    周りに奉仕することは個人的に報われることになると思っている。
16    私は専門的な機関・団体に属しており、定期的にメンバーと知り合うように会合に出ている。
17    ほとんどの同僚について、プロとしての見地から理解している。
18    プロジェクトでの私の個人的な貢献は、周囲からのインプットを確実にし、強化することだ。
19    なるべくコメントが格好よくなるように、話をする前に考えるようにする。
20    周囲から私は、きちんとした意見をもっていて、しかも周囲の意見にしっかりと耳を傾けると言われる。
21    周囲から私は自律的に経営上の意思決定を評価していて適宜代替案を示すことができると評価されている。
22    私は、周囲から将来についてのビジョンを持っているといわれる。
23    リクエストに対して「できません」とは滅多に言わない。
24    毎月数回、私のチーム/所属組織の中心人物にランチに誘われる。
25    周囲との関係が良好なので、周囲が失敗するときでも私はしばしばうまくいくことがある。
26    見方や見解の異なった人と一緒に仕事をするのは楽しい。
27    自分の仕事着は自分で買うし、自分に合うようなものを選んでいる。
28    駆け引きは私の一番の強みである。
29    経営層から意見を求められるとき、私は腹蔵なく話すものと思われている。
30    仕事をやり遂げるだけではなく、新しい創造的なやり方を見つけ出すことも大事だ。
31    私は自分の組織にどうやって付加価値をもたらすかを意識的に考えている。
32    会社のうわさをするときは少しでもいいように言うようにしている。
33    誰からも好かれたいというような無理な要求はしない。
34    誰かとブレーンストーミングすることでアイデアを交換すると、元気付けられる。
35    人からよく私は、なかなか評判の話し手であるといわれる。
36    メッセージが好ましいと思わないときは、めったに送らないことにしている。
37    ご機嫌をとるために上司をなだめることよりも率直であることの方が重要だと思う。
38    時間通りということは正確に仕事するということは同じように私にとって重要である。
39    私が仕事を楽しんでいる証拠に陽気な(upbeat)態度で仕事するということがある。
40    私は、社内の他部署または社外にポジションの近い仲間がいて仕事に関連したところで意見を交換する。