リーダーシップコンピテンシーの因子分析

要旨

コンピテンシーは一過性のブームとみなされることが多いが、本来、そこで目標になっていた高業績を生み出す行動の実現は普遍的な課題である。しかも、コンピテンシーという言葉以前に、長らくリーダーシップ研究で取り上げられ、議論されてきた問題である。

わが国におけるリーダーシップ研究では、LMX理論と共に、三隅二不二によるPM理論が有名である。リーダーシップ行動を行動指標としてまとめ、これを因子分析すると、PerformanceとMaintenanceに分かれ、二因子構造を持つとするPM理論は単純な構造ゆえに正当に評価されてこなかったきらいがある。そこで、本研究では、三隅と同じく行動指標を拾い、これを整理してクラスター分析によって系統化した。その結果、大枠ではPM理論に類似した構造を見出すことができた。また下位の因子でもほぼ同等の因子構造を確認することができた。また主成分分析を行なったが、それによっても2因子構造が確認できた。

三隅は中間管理職のリーダーシップ機能について6つの因子を想定していた。これに対して、本研究では、戦略志向、組織調整、動機付け、人事管理、実行徹底の5つの因子が因子分析によって明らかになった。三隅は因子分析で主因子法、バリマックス回転で実行したが、本研究では主因子法、プロマックス回転で行なった。

本研究の特徴は1つに多面評価によって本人の日常行動を観察・評価したことにある。上司による評価、同僚による評価、下位者による評価などの情報を集め、それらを周囲評価として統合した。このようなアプローチを取ったために、サンプル数がやや少なくなったが、評価情報自体は多く、分析結果はサンプル数の多い三隅研究と軌を一にすることになった。

リーダーシップ研究では綿密に行動指標を拾い、それによって学習しやすい環境作りを行なうことが必要である。行動指標をわかりやすく示し、それによって職務行動を改善向上させる取り組みは本来、コンピテンシー運動が狙ったことであり、このことは普遍的な組織開発、人材開発になるものと考える。


はじめに

コンピテンシーは90年代以降に米国で生まれ、画期的な人事組織上のイノベーションとして日本に紹介された。しかし、コンピテンシーが目指した高業績の実現は普遍的な人事組織マネジメントの手法であり、効果的なリーダーシップを待望する経営管理における古くて新しい課題である。日本では三隅二不二の確立したPM理論においてその原初形態を見出すことが困難ではない。そこで、本研究では言動を整理し、データを分析してリーダーシップのパターンを明らかにすると共に、三隅のPM理論との比較においてそれらが符合することを示そうとしている。


リーダーシップ・コンピテンシーの意義

コンピテンシー(Competencies)とは、日本において一般に「高業績者の行動特性(Behavioral attributes of High Performers)」と考えられているが、共通認識となる定義があるわけではない。Klemp(1982)によれば、コンピテンシー(Competency)とは、①「効果的で優れたパフォーマンス(業績や働きぶり)をもたらす人に見られる特性」のことで、②この特性は「動機(motive)、性向(traits)、技能(Skills)、知識(Knowledge)などの総体」からなるが、時に③「本人も保持していながら気づいていないもの」である、という 。日本ではコンピテンシー・モデリングを行なう際に行動インタビューが効果的であるとされてきたし、現在でもそういう認識はある。しかし、③にあるように、「本人も気づかないもの」をどうやって短いインタビューで把握するのか、表出化として問題となる。実際、自己の職務行動の優位性を自覚して質疑に答えられる人はそう多くない。そもそも有能な人ほど、自分の行動について奥ゆかしく、遠慮がちに語るのではないだろうか。それ自体、美徳であり、有能さの証と考えられている。また当事者や関係者は、職務行動や組織行動に関する出来事について質問されると、誇大に語ることも少なくない。現実離れした成功譚を語り、あるいは逆に不満や問題点を口にして大袈裟に嘆くこともあるだろう。実際、高業績者/ハイパフォーマーをインタビューしても、ありきたりの問答に終始し、核心に触れる本人特有の特性や、仕事の成功/失敗に結びつく出来事(いわゆる「重要事象/critical incidents」)の抽出が必ずしも行なえるわけではない。時にインタビューは本題から逸脱し、収拾のつかない話になり、タイムアップになってしまうこともある。むしろ質問紙による調査のほうが網羅的かつ的確に実態把握が行なうことができる。本稿では1つにこのこと、つまり聴き取り調査に対する質問紙調査の優位性を確認してみることが大きなねらいである。これは重要な方法論的ないし組織認識論的な争点である。

またコンピテンシーの普遍性に関して確認することの必要性である。コンピテンシーに関しては、概ね1998年から2003年にかけて日本でも熱狂的な関心が寄せられ、人事改革の大きな柱になっていた観がある。コンピテンシーは成果主義人事改革とそもそも異なる臍の緒を持つものだが、①平均的業績ではなく高業績を標準とする志向性を持つこと(raising the bar)、②職能資格制度における情意考課や能力考課を一新する組織言語体系を持つこと、つまり単に組織に従順な実在者ではなく、組織に貢献し、結果を出せる人を評価すること、この2点から、脱「能力主義」 の人事改革の手法の1つとして位置づけられた。それだけに人事改革が一巡してしまうと、関心が薄れるばかりか、旗振りされてきた成果主義に対する拒絶感、不要論もあり、人事改革の終焉とともに食傷気味になってしまった。現在ではコンピテンシーは単なる一時的にブームに過ぎない、もはや議論する意味すらないという指摘もある 。しかし、それは日本的な人事改革の文脈に位置づけられた「コンピテンシー」の問題であるに過ぎない。コンピテンシーの本来的意義からすると、それは普遍的な人事管理・人材育成の問題であると考えるほうが適当だろう。ここで本来的意義とは、組織内で高業績を発揮する人の行動特性を探るということ、あるいは業績と効果的な組織行動を関連付けて考えるということである。さらに言い換えれば、効果的なリーダーシップとはどのようなものかを探ることである。ただ、このコンピテンシーという言葉を、身を乗り出して使うべきかどうかは当初から疑問を持っている 。1つにはコンピテンシーで想定している組織行動の分析はその言葉がある以前から行われてきたことであり、もう1つにはコンピテンシーを主張する人々の心理統計的手法の不十分さがあることである 。本稿では、概念としてのコンピテンシーについての議論は避け 、実務的に展開されたコンピテンシーの事例を取り上げつつ、従来、リーダーシップやマネジメント能力の問題として研究されてきた系譜に沿って、職務行動/組織行動を分析し、統計的手法によって広い意味でのリーダーシップ・コンピテンシーを明らかにしていきたい。またその評価については多面評価を活用したい。

ところで、わが国のリーダーシップの研究では、三隅二不二による経営トップのリーダーシップ、中間管理職のリーダーシップに関する重厚な研究がある(三隅,1988など)。三隅はPM理論で知られ、行動指標を①Performance「目標達成能力」と②Maintenance「集団維持能力」の2因子に要約した。しかし、この最終の結論部分だけが伝えられるために、組織現象の何もかもを2因子に還元して捉えることにこだわったとか、それ以外の要因はあまり考えなかったと見られていることがある。言われなき批判である。これは大きな誤解である。例えば、三隅は、工場課長の組織行動の因子について、計画性、内部調整、垂範性、厳格性、配慮、独善性の6因子がある、としている 。もちろん、その下位まで考えていたし、具体的な行動指標を想定していた。指標を各管理者の行動評価にすることも示していた。また三隅理論では「因子」という言葉を濫用することが誤解を招き、また統計分析になじみのない人たちには無意味な数字が列挙されているように受け止められ、ますます別世界のもの(無味乾燥な統計数字の羅列)と一部には捉えられてしまっている。しかし、このような「因子」こそ、コンピテンシーに他ならず、三隅こそ日本のみならず、リーダーシップ・コンピテンシー研究の先駆者であると考えるべきであろう 。三隅は、クルト・レヴィン賞を受賞し、世界的に評価された稀有の日本人組織心理学者だが 、本研究は三隅の研究の一部を継承するものに過ぎない。


多面評価の人事システムとしての意義

多面評価とは、被評価者である本人の直属上司のみならず、その上司の上司や他部門の上位者や、本人が普段、職場で一緒に仕事をしている同僚、さらにその本人に部下がいればその部下、あるいは後輩や顧客など多方面から評価情報を求める仕組みであり、それによって本人の強みと育成点を示唆し、気づきを促すことによって自己啓発を促進する人事システムである(Tornow,1993;Dessler,1997)。米国では360°評価ないしは360°フィードバック(360 degree feedback/multi-source assessment)として研究と実務の両面から展開されてきたが、実践面が先行してきた(London&Smither,1995)。

多面評価に関する研究の潮流について、高橋潔(2001)は、5つの論点があるとしている。第1に多面評価のプロセスに関する認識論的問題であり、心理測定的に十全な評価法を開発することが目的か、または組織目標を達成するための手段とする実務的な考え方かに立つか、というその論点である。第2に多面評価に対する反応(reaction)に関するもので、例えば、部下評価の結果をフィードバックに加えたほうが好意的になるといった論点である。第3に多面評価における評価の一致(agreement)の問題であり、この観点からは多くの研究がなされている。自己評価と他者評価は食い違い(discrepancy)が生じることは当然だが、その解釈は議論が多い。ただし、他者間の評価について概ね一致するとされている。第4に自己認識(self-awareness)が業績やキャリアに及ぼす影響である。多面評価に関して本人が自己に関して過大評価、適正評価、過小評価するかによってその後にキャリアがどうなるかも大きな論点である。第5に多面評価が管理者のその後の業績や職務行動、スキルの習得などについて及ぼす系時的効果(longitudinal effect)に関する研究である。

多面評価における多くの論点を検証するには本研究のサンプル数は十分とは言えない。そこで、自己評価以外の周囲の評価は比較的一致しているという見解を踏襲し、周囲評価を多面評価の結果とみなして分析を進めていく。


行動指標の整理とコンピテンシー・モデリング

リーダーシップ・コンピテンシーに関する行動指標は複数の企業に対するコンサルティングによって構築された。A社 ではコンサルタントがコーディネーターとなり、人事部門を事務局にして各部門の関係者が集まり、各部門でうまく仕事をするためにはどのような能力が必要か、どんな行動を取らないといけないかが徹底的にブレーンストーミングされた。コンサルタントは、英語圏のコンピテンシー・リストの例を日本語と英語の両方で示し、なるべく不足した部分を補い、議論を活性化することに寄与した。半年ほど経過し、その結果は全社共通のコンピテンシー・リストに結実した。コンピテンシー項目ごとに行動指標を整理し、列挙した。またB社 では行動要約尺度によるまとめをするため、想定したコンピテンシー項目について高業績行動、標準行動、問題行動をそれぞれ列挙し、リストにまとめた。以上のようなコンピテンシー・リスト作成の作業を通じてできた行動指標は、後に丹念に推敲され 、1項目4指標の形で整理された(表1)。これらのリストは多面評価のソフトにして操作性が確保された。

 

このコラムの詳細は下記のURLにあります。

http://www.jexs.co.jp/column018.html